冬。僕はきみの傍に、

04.幼なじみ

 ここからは15禁です。
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 夕食を終えてからずっと机に向かっていた晃は、手と肩の痛みを覚えてシャーペンを置くと、猫背になっていた背を伸ばして、ついでに腕も伸ばし固まった体を解した。
 前期の試験も近く、ここのところ毎日勉強漬けだったが、それでもいつも頭の隅にあるのは同じアパートの部屋で同居している祐介のことだった。
 晃は大きなあくびをひとつすると、壁に掛けてある時計を確認し、夜食でも食べようと部屋を出た。キッチンへ向かう途中、ついでに祐介の部屋の前で止まりノックをすると戸の向こうに声をかける。
「夜食作るけど食うか?」
 すぐに、だが弱々しい声で「おー」と返って来て、晃はひとつため息をつくとキッチンへ向かい、棚下から夜食用のインスタントラーメンを取り出しながら、
「まーだ悩んでんのかぁ?」
と、最悪祐介に聴こえないように小声でぼやく。
 何の話かといえば、祐介が先月から罹っている恋煩いのことだ。
(男を好きになったことにショックを受けて、それを受け入れて告白したら玉砕して落ち込んで――)
 正しくは、その好きになった相手に「お金を払えばセックスしてあげる」と言われたのだ。つまり体を売っているということだが、どんなことにも一直線な男には衝撃の強すぎた出来事だろう。
 祐介とその男を引き合わせた学友の歩から、予め話を聞いていた晃は、祐介から「好きな人が体を売ってる」という告白を聞いてもとくに驚きはしなかったが、そう話す祐介の憔悴しきった姿を見て、どうしたものかと悩んだりした。
 祐介が、自分が男を好きになったことに動揺していたときには、
『お前、本気でそいつを好きになったんだろ? たとえ相手が男でも、好きになったもんは仕方ないんだ。受け入れろよ、自分の気持ちを――』
と励ましたりしたが、今回の場合は一体どのように元気付けるべきかと。
 好きな人が売春をやっていると知った次の日、見慣れた光景となったダイニングのテーブルに着き項垂れる祐介を、励ますために晃が言った言葉は――
「体から始まる恋もあるんじゃないか?」
だった。
 考えに考えたのだが、結局それしか思いつかなかった。
 これには自分でも浅いなと晃は内心で自嘲したが、とりあえず祐介を力づけるには何でもいいから道を指し示してやらなきゃならない、そう思ったのだ。
「体から……?」
「そういう話たまに聞くし、寝てみて身体の相性が良かったら、また会いたいと思うようになって――とか」
「……」
「お前からすりゃ、買うのってものすげぇ抵抗あるんだろうけど、そうやって親しくなって会ううちに恋が芽生えて、お前の言うことも聞いてくれるようになるかも知れないだろ」
 晃が話している間に、祐介の目には目標を見つけたときの強さが戻っていた。
「そういう、ものなのか……」
 今まで恋愛経験のなかった男は、そう言うと再びぶつぶつと呟きながら考え込んだ。
 とりあえず元気付けることには成功した――と晃は思っていたが、7月に入ってすぐ辺りにまた祐介が落ち込みだしたので、付き合ってらんねぇと今回は晃もしばらく放っておいたのだが。
 湯を注いだインスタントラーメンを2つ、ダイニングテーブルに置いてイスに座り、リビングのテレビをつけて3分が過ぎるのを待っていると、廊下の方で戸の開く音がした。
 振り返ると祐介が部屋から出てくるところで、こちらに歩いてくる様子は晃の目から見ると、やはり憔悴しきっているように映った。
(もしかしたら、会いには行ったが買うのすら拒否られたとかか?)
 いつもあまり表情を見せない祐介だが、漫画の表現でいえば顔の上半分が黒く塗りつぶされたように影が落ちている。晃は自分の予測は、あながち間違ってはいないんじゃないかと感じた。
(実は打たれ弱いってか)
 さすがに放っておけないと思って、晃は向かいのイスに座る祐介に声をかけた。
「お前、勉強はできてんのか?」
 とりあえず、当たり障りのなさそうなところから聞いてみると、「おー」という先ほどと同じような返事が返ってくる。
「もうすぐ試験だしさぁ」
「おー」
「来年には就活も考えなきゃだし」
「おー」
「お前、少しは考えてんのか?」
「おー」
「……聞いてる?」
「おー」
 これは何を聞いてもだめだと思った晃は、回りくどいことはやめてさっさと本題に入ることにした。
「好きな人になんか言われたか?」
 すると、初めて祐介は晃と視線を合わせ、そしてまた視線を落とすとゆっくり首を横に振った。
「? じゃあ会えなかったとか?」
 これにもまた首を振る祐介。
「会えたけど……拒否られた、とか?」
 再び首を振る。
 晃は眉間にシワを寄せると、祐介の答えが何を指すのか考えた。
(相手に何か言われたからじゃなく、会えなかったわけでもなく、拒否られたわけでもない――)
「ってちょっと待て! じゃあ、もしかして買った――のか?」
 思わず身を乗り出して聞くと、今度は祐介の首が縦に振られる。
(……マジかよ)
 晃の気づかない間に、祐介は好きになった男娼を金で買い、そしてたぶんセックスをしたのだ。晃はそこまで考えてめまいを覚えた。あることが脳裏を過ぎるが、とりあえずそれは置いておくとして、では祐介は何をそんなに悩んでいるのか、晃にはそれが余計に理解できなくなった。
「じゃあ、お近づきになって、寝て、何が不満なんだよ」
 多少自棄になってそう聞くと、やっと祐介がまともに口を開いた。
「すごい、後悔した……」
「後悔?」
「あいつと少し話して、抱いて、その時は幸せだったんだが、金を渡すときになって――おれは最低だ、と」
「……」
 祐介の言葉に、咄嗟に晃は何も返せなかった。
 思わず祐介から視線をそらし、付けっぱなしのテレビを眺めながら黙考した。
 祐介に「買ってみればいい」と言ったのは自分なのだ。祐介のことだから、こんな風に後悔することもあるかも知れないと充分に予想できたはずだが、晃は軽い調子で買ってみればいいと言ってしまった。その手前、祐介の思いを否定も肯定もできなかった。
 ただ、気持ちはわからないでもない。
 少しの沈黙が続いて、晃はインスタントラーメンの存在を思い出し、割り箸を手に取るとすすった。すすりながら考えて、再び質問してみる。
「その相手はどんなだった?」
「?」
「お前が好きな奴だよ。金払って、寝て――その、嬉しそうだった、とか? 嫌そうだった、とか?」
 聞きながら、なんで自分はこんなこと聞いてんだと、幾分バカバカしくなったが、そんな晃の思いは気づかず答える祐介。
「……帰るまでは、良かった。だが、帰る前に金を渡して、それから態度が変わって――怒ってるように見えた」
「ふ〜ん、金ちゃんと払ったのに?」
 という晃の言葉は、祐介の想い人に対し言った批判だったが、祐介自身も後ろめたさがあるのか余計俯いてしまう。
 祐介に対して言ったんじゃないのにと、言葉を選ぶ難しさを感じて晃はまた黙ってラーメンをすすった。
 だが、考えれば考えるほど晃は腹立たしく思い始めていた。
 男を好きになってしまったことにショックを受けたり、相手が男娼だと知って驚愕したり、それで落ち込む祐介を晃は自分なりに励ましたりしたわけだが、何で自分が友人とはいえ祐介と男娼との恋にやきもきさせられなきゃいけないのか。
 大体、帰るまでは良かったというなら、2人の夜をお前らは楽しんだんじゃないかとさえ思い、それで何が不満なんだと晃は憤懣やる方ない。
 勢いラーメンを食べ終えると、晃はテーブルに箸を叩きつけて祐介を睨みつけた。
「それで、お前はどーしたいわけ? 後悔したっつーけど……最低だっつーけど、それ言ったらンなことしてる向こうだって最低なんだからな。実際えげつねぇよ。自分を好きだとか言ってきたやつに、『金払ったら抱かせてやる』とか。そんな奴を好きになるお前もお前だな」
 ガタンと大きな音を立てて祐介が立ち上がった。デカイ図体が壁となって目の前に立ちはだかっているような錯覚を覚えつつ、だが晃は余裕の構えでそれを見上げた。
 祐介が珍しく声を荒げる。
「彼はえげつなくないっ! きっと何か――」
「事情が? あれば人を傷つけていいのか?」
「それはっ――」
「ま、人が人を傷つけるなんてよくある話だけどな。それでお前は傷つけられて、ヘコんで? もうお終いか?」
「……」
 返す言葉がなかったのか、祐介は黙り込むと再びイスに腰を下ろした。
 テーブルに視線を落として静かになった祐介を、晃はじっと見つめながら祐介が何か言うのを待った。
「おれは……」
 どれぐらいかして、やっと祐介が口を開く。
「おれはそれでもあいつが好きだ。会って、話してみて、ますます好きになった」
 そんなにいい男なのか? と内心で問い返すが、それは口にせず晃は別のことを言った。
「じゃあ、また何度でも会いに行けばいいじゃねーか」
 結局はそれしかないと、晃はそう思った。ところが、
「金がもう、ないんだ……」
「お、おぉう……」
(思ったよりも高かったんだ。しかも、なんだかんだ言いつつ、また買おうとか考えてんじゃん!)
 思わぬ祐介の発言に、晃は咄嗟になんて返せばいいのかわからなくなったが、しかし、考えてみればそれなら解決方法はひとつしかない。
 晃は立ち上がり食べ終えたラーメンのカップを流しで洗ってごみ箱に捨て、そして立ち去り際に祐介の肩を叩くと軽く励ました。
「じゃ、頑張って働くんだな」
 もうとっくにふやけてしまっただろうラーメンを、未だに食べようとせず見つめ続ける祐介。そんな彼をダイニングに残し、晃は内心で毒づきながら勉強の続きをするため部屋へ戻った。
(やってらんねぇ)

 7月も半ばになると空模様は晴天が増えた。
 まだ不安定のようにも見えるが、天気予報士によればもうすぐ梅雨明け宣言ができるだろうということだった。
 今日も天気は晴れて、雲は幾分多いものの人々にとって気持ちの良い1日になりそうだった。
「それで、祐介は金がないからってしょげてんの?」
 講義の合間に食堂で昼食を取っていると、晃に気づいた歩が向かいの席に座り、祐介と男娼との話を聞きたがったので、晃は自分の不満をぶつけるように説明した。
「ああ」
 もとはといえばBARに連れて行き、その男娼と引き合わせたのは歩だったのだが、自分のせいでという考えはまったく無いのだろう、歩は軽くため息をついただけだった。
「オレも、あいつはやめとけって忠告したんだけどね」
「そうなのか?」
 歩は相手を気に入っていないようだったので、祐介にそう助言したのだろうが、自分とは間逆だなと思って晃は疑問に思っていたことを口にした。
「あのさ、そいつってそんなにイイ男なのか?」
 歩はかなり批判していたが、祐介はかなり気に入っている。本人たちの趣味や相性の問題だろうが、これほど評価が分かれると晃も興味を引かれてしまう。話だけを聞けば晃の気持ちは歩のそれに近いものはあるが、ではなぜ励ますのかといえば――祐介が親友だからである。
 そんな晃の気持ちを察しているかわからないが、歩は記憶を辿るように視線を巡らせると説明した。
「前も言ったけど、顔はいいよ。色白の可愛い系で、ウケ専だね。かなりの好きものだから、体目当ての男にはよくモテるけど、本人はそれで満足ってんだから頭からっぽなんじゃねぇのって思うね、オレは」
 歩の話を聞いてますます晃は訳がわからなくなる。
(そんな相手のどこが気に入ったんだ、あいつは)
 内心で呟く晃の言葉が聞こえたわけじゃないだろうが、歩は微笑してさらに続けた。
「でも、陰があるのは確かなんだよね」
「陰?」
「そ、なんか過去しょってんのかなっていう、ね。男たちに囲まれて嬉しそうにしてると思ったら、時々妙に淋しそうな顔してたりとかさ。オレはもちろん、そういうので悲劇ぶる奴は大嫌いだけど――そういうの、放っておけないお節介な奴っているだろ?」
「……それが祐介だって?」
「そういうこと。顔が好みで惚れたっていうのも確かにあるんだろうけど、祐介の場合はそういう内面とか敏感に感じちゃってんじゃないの?」
「……」
 歩の言葉に、晃は思わず考え込んだ。
 つい先日、祐介の想い人を晃が批判したら、珍しく祐介が怒ったときのことを思い出した。
『彼はえげつなくないっ! きっと何か――』
 何か感じたというのだろうか。彼の過去を? 内面を?
 だが、祐介は確かに正義感が強いところがある。困ってる人を放っておけない奴だ。そんな祐介だから、淋しそうに鳴いている子猫がいたらきっと助けようとするだろう。祐介を知らない者だったらわからないかも知れないが、晃ならそんな場面いくらでも想像できると思ったし、似合いすぎているとさえ思った。
 もちろん、その子猫はこの場合、祐介の想い人のことだが。
 ふとテーブルに視線を落として考え込んでいる自分に気付き、そんな自分を見つめてニヤニヤしている歩に気づいて晃は焦った。
「な、なんだよ……」
 内心を読まれてるんじゃないかとびびっていると、歩が鞄から例の黒い袋を取り出してテーブルに置いた。
(またか……)
 ゲンナリしてそれを見下ろす晃に、また笑みを深くして歩がその袋を晃の方へ滑らすように押しやった。
「悩める男子にオレはいつだって手を差し伸べてあげたいのだよ」
「……悩める男子って――いや、この間借りたやつも返せてないしさ」
「いいよ、また今度で」
「いや、でも――」
「晃にだって必要だろ? 欲求の捌け口がさ」
「――?」
「だって、祐介を他のやつに、しかも男に盗られちゃったんだもんね」
「なっ!?」
 歩の言葉に晃は驚愕して絶句した。隠していたつもりが、つもりだったのだ。
 晃の反応に歩は軽く息をついて苦笑した。
「やっぱりね、そうじゃないかと思った」
 どうやら確信があったわけじゃないようだが、やはり内心を読まれていたのだということに晃は恥ずかしくなった。そんなにあからさまな態度だったろうか、と。
「安心していいよ。他の奴らは気づいてないだろうし、オレはこれでも観察眼は鋭い方だと自負してるんだ」
「そうか……」
 歩に言われて、晃はホッと胸を撫で下ろした。できれば誰にも知られたくない想いだったが、歩だったら別に――と、そこで晃の胸中に不安の影が落ちる。
「あのさ、誰にもこのことは……ご内密に――くれぐれもあいつにだけは」
「わかってるよ!」
 晃の懇願に、歩が心外だというように睨みつけてきた。
「オレだって、その辺の分別はつけてあるさっ」
「お、おぅ――すまん」
 歩のご立腹に慌てて謝る晃。そんな晃を見てすぐに怒りを引っ込めると、歩は再び苦笑して言った。
「それにしても、幼なじみって不毛だねぇ」
 そういうことはしっかり言うんだな、と思いながらも晃は
「そうだな」
といって自嘲した。

 結局、歩に押し付けられたDVDは今、晃の部屋にある。
 祐介にでも渡してやろうと思ったが、『今日は遅くなる』というメールの通り帰ってこない。
 晃が助言したように、本当にバイト探しに奔走してるのかも知れない。目標が一旦定まれば行動力のある男だから。
 夕食後、いつものように机に向かっていた晃だが、今日はなぜか手につかなかった。考えることといえば祐介と、そして祐介の想い人のことばかりだ。
「なんで男なんだろうなぁ……」
 それは、なぜ祐介の想い人が男なんだろうか、という意味で、晃は祐介が好きになる相手は迷うべくなく女だろうと思い込んでいた。
 中学の頃から同年代より逞しい体をしていた祐介は、すぐに見込まれて柔道部に誘われ、その才能と努力をいかんなく発揮した。没頭すると、それにだけ夢中になる傾向のあった祐介は、以後、高校を卒業するまで柔道一筋で、浮いた話などひとつもなかった。
 当然、晃の目から見て柔道部の男部員や、男クラスメイトと異常に親しいとか、想い想われてるとか、そういう雰囲気はまったく感じなかった。隠してたりということもあるだろうが、祐介に限ってはそんな器用なことはできないから、見抜けなかったはずはない。
 小学校の頃から家が近所で親しくしている自分に対しても、親友という以上の感情をぶつけてくることもなかった。
 だから、てっきり祐介は女が好きだろうと思ったし、将来はどこぞの女と結婚するんだろうと思っていた。
 ちなみに、そういうとき想像する結婚相手は、大人しめの美女だが、それはせめてそれくらいの容姿の持ち主じゃないと嫌だという、晃の勝手な願望である。
「そういや、でも……AVとか興味なさそうだったな」
 ふと思い出したのは、高校のとき悪友が「兄貴の部屋から盗ってきた」と言って持って来たAVを、誰かの部屋で見ようと誘われたときのことだ。
 晃自身は興味がないこともなかったので――もちろん女が好きというわけではなく――どちらでもいいと思っていたのだが、祐介はどうするだろうかと見やると、眉間にシワを寄せて「おれはいい」と言って拒絶した。
 あの時は「潔癖なんだな」と思っただけだったのだが……。
 本人は自分の指向に気付いていないようだったが、考えればあの頃すでに祐介は女に興味を持てていなかったのだろう。
「男を好きになるんだったら、変に遠慮するんじゃなかった」
 机に置いた手に額を乗せてぼやいていると、視界の端に黒い物体が見えた。ベッドに放り投げておいた、歩から押し付けられたDVDだ。
 晃は何も考えずそれを手に取ると、起動していたノートパソコンに入れた。
 しばらくして画面に再生ソフトが現れ、自動的にDVDが再生される。
 逞しい体をした男たちが絡み合うのを見ながら、晃はイスにもたれるとベルトを緩めたズボンに手を差し込んだ。
 そのうち、体格のいい男を祐介に見立てて、晃はその男の一挙手一投足に意識を集中した。
 いつからだろうかと、ふと晃は思った。祐介のことを考えながら自慰をするようになったのは。
(はぁ……祐介)
 気がつけば祐介を好きになって、男が好きということに悩んだりもしたが、祐介にも言った『好きになったもんは仕方ないんだ。受け入れろよ、自分の気持ちを』という言葉を自分に言い聞かせ――だが、それを受け入れるだけで精一杯だった。
 幼なじみであり、すでに親友という立ち位置を確立してしまった晃は、ついにそれを壊すことができなかったのだ。
(俺がもし、幼なじみじゃなかったら――いや、変わらないか)
 今日、歩に言われた言葉が脳裏を過ぎる。
『幼なじみって不毛だねぇ』
(ホント、そうだよな……)
 子供のころから親しい自分は、いい意味でも悪い意味でも空気のような存在なんだろう。漫画なら、幼なじみで始まる恋もあるというのに。
 画面の中で、祐介に見立てた男が女役の男の後ろに、デカイ一物を挿し込んで腰を振っている。それを眺めながら晃は手の動きを速めると――
「っ――はぁ、祐介っ!」
小さく祐介の名を囁き、自分の手の中で精液を放った。
 少々荒くなった息を整えながら、白く汚れた手を見下ろすと、晃はまた自嘲した。
(ホント……不毛だよ)

2010.05.03

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