冬。僕はきみの傍に、

27.ヤリ逃げ

 ここからは18禁です。
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『今日ちょっと遅くなりそうなんで、先に部屋に入っててください。帰りになんか買ってきますよ。何がいいっスか?』
 宗太のアパート前に着いた速水は、在宅かどうか確認するため宗太に電話しようとケータイを取り出すと、そう宗太からメールが入っているのに気づいた。
 速水はそのメールに「甘いもの」と返してから、合鍵で宗太の部屋に入った。
 時刻は夜7時過ぎ。部屋に入るとすぐに電気をつけ、ジャケットを脱いでソファーに放り投げ、一瞬迷ってから暖房をつけるのはやめておいた。
 季節は春間近の3月、昼間は暖かくても夜は時折まだ寒さを感じることもあった。だが、今夜はそれほど寒くはない。
「――……」
 というよりも、部屋が暖まっているように感じる。そう思って、ふと先ほどまで誰かが居たのだろうかと速水は勘ぐった。
 だが、ダイニングのテーブルの上にあるメモを見つけて、一旦不信感はなくなった。
 メモには綺麗な字でこう書かれていた。
『宗太へ。誕生日おめでとう。少し待ってたんだけど、今日は仕事残業かな? お疲れ様。ケーキを作ったから良かったら食べて。冷蔵庫に入れてます。一也』
 なるほど、さっきまで宗太の兄である一也が、この部屋で宗太が帰ってくるのを待ってたのかと速水は納得した。寒くて暖房をつけたのだろう、だから部屋が暖かかったのだ、と。
 甘いものに目がない速水は早速冷蔵庫を覗き込んだ。そこには大きめの無地の箱があり、取り出して開けてみると結構な大きさのケーキが入っていた。
「イチゴケーキか」
 速水は遠慮なくナイフで4分の1に切ったケーキを皿に乗せ、冷蔵庫からチューハイを取り出すとリビングのソファに腰を下ろした。そうして、テレビを流し見ながらチューハイを飲みつつ、あっという間にケーキを平らげてしまう。
(さすが一也さん。甘すぎない絶妙なうまさだな)
 以前、クリスマスのときにも一也の家でケーキをご馳走になったことがあった。その時のケーキも美味かったことを速水は思い出し、自分のときの誕生日にも作ってくれないかなと厚かましいことを思ってしまう。
 何もなくなってしまった皿を見て、もう4分の1も食べてしまおうかなと速水が思い立ち上がりかけた、その時――
「ん――」
 ふとめまいを覚えた。それと同時に、体がじんわりと熱を持ち始めていることにも気づく。
 もう酒に酔ったのかと速水は目を閉じ額に手をやったが、そうやってめまいをやり過ごそうとしているうちに、そのめまいや発熱が酔いのせいだけじゃないことに気づいた。
「なんだ……これ」
 心臓が早鐘を打ち、顔が火照り、体中から汗がにじみ出て、さらに体の奥から痺れるような疼きが広がっていく。しかも体の中心に向かって疼きは強くなっている。
(もしかして、これは……)
 馴染んだ体の異変に視線を下にやれば、ズボンの前が大きく膨れ上がっている。それが辛くて前を寛げようと手を伸ばすが、ジッパーを下ろしたり自分の手が当たるのにも、速水のそこは敏感に反応した。
「うっ――クソッ!」
 すでに速水は何がどうなっているのか理解していたが、この昂ぶりを抑える以外に今は道がないことがわかっていたので、ひとまず自身をズボンの外に出した。そうして、自分で自分を慰めようとしたその時、
「ちょっと待った!!」
 でかい声とともにリビングの戸が勢いよく開いた。いつの間に入って来ていたのか宗太が戸口に仁王立ちして、覗いていたのか興奮した面持ちで速水を凝視してきた。
「お前っ、よく出てこれたな!」
 速水は凄みを利かせたつもりだったが、欲望をさらした格好では意味はなかったかも知れない。
「な、なな、何を言って、るんスか?」
 それでも多少どもりながら宗太がとぼけて見せる。
 とぼけてはいるがまだ速水に対する怯えがあるようで、速水は怯えてるうちに宗太を思いとどまらせようとたたみ掛けた。
「全部わかってんだよ! お前は俺が来る前に本当は帰って来てたんだろ。そんで、一也さんのケーキ見て、それに薬盛ってやろうって閃いたんだろうが。前に薬盛られてから俺はお前の出す食べもんや飲みもんはチェックしてたからな。それが一也さんの作ったケーキで、しかもお前がまだ帰って来てないって俺が思ったら、何の疑いもなくケーキ喰うだろうって思ったんだろ。実際その通りになったけどな! 前にも言ったろ、次はないってな!」
 一気に捲くし立てられて宗太は「うぅ」と呻いたきり立ち尽くした。どうやらほとんど図星だったようで、じっとりと額に汗を浮かべて固まってしまった。
 速水は少しだけ声のトーンを抑え、間を空けずに続けた。
「今なら許してやる。今すぐここから出て俺の部屋でもどこでも行って、一晩頭を冷やして来い。今夜一晩戻らず、薬とかアレとか使おうなんて二度と思わないと誓ったら、今日のことは忘れてやる。わかったか?」
 聞く体の脅しに近い速水の言葉に、宗太はさらに汗を流しながら呻いていたが、速水がさらに「出てけ」と言うより早く、その場に膝をついて這いつくばった――いや、土下座をした。
「おい――」
「お願いしますっ!!」
 速水の言葉を遮って、宗太が声を張り上げた。頭を下げたまま宗太は声のトーンそのままに続ける。
「一生のお願いですっ! 一度でいいんでオモチャ使わせてください! 速水さんがオモチャで気持ちよくなってんの見てみたいんス! オモチャでイクとこ見てみたいんス! お願いしますっ!!」
「……」
 恥ずかしげもなく宗太の願望を土下座という形でぶつけられて、速水は咄嗟に言葉もなく宗太の後頭部を凝視した。
(こいつ、よくもゲスな頼みをこんな堂々と言えるな……)
 怒りを通り越して呆れ、しまいには呆れを通り越して感心してしまいそうになる速水だったが、こんなことで感心などしたくなかったので、その感情はすぐに打ち消した。
 だが、潔い土下座に速水はどうすればいいのか迷う。もちろん了承するつもりはないが――
 黙りこくる速水に不安になったのか、宗太が恐る恐る顔を上げて速水を見上げてきた。恐る恐るではあったが、その視線ははっきりとした意思を感じた。
「速水さん。ダメ、ですか?」
「……」
「今日だけ――」
「……」
「一生のお願いです」
「……」
「今日、オレ、誕生日なんス」
「――お前」
 最初の勢いとは打って変わって情けない哀願に、ついに速水は口を開いた。
「“一生のお願い”がこれでいいのか?」
「はい!」
「お前……自分が情けなくならねぇか?」
「オレ、速水さん好きっスから! いろんな速水さんの顔とか姿とか見てみたいんス!」
 宗太の言葉に速水は返す言葉も見つけられず、ひとつ大きなため息をついた。それを宗太は了承と取ったらしい。
「速水さん、OKっスか!?」
 そう言って立ち上がりかけたが、すかさず速水は「ダメだ」と返した。
「そんな……」
「いいわけないだろ。こんなん1回でお前が満足するとも思えんし」
 速水は前を手で隠した格好で立ち上がるとバスルームへ向かおうとした。宗太は出て行きそうにないし、かといって宗太の前で自慰するつもりもない。薬のせいか治まる気配もないし、バスルームなら鍵がかけられるから一人で処理できるだろうと思ったのだ。
 だが、それに気づいた宗太が速水の前に立ちふさがった、だけじゃなく、
「ちょっ! やめっ――」
 宗太は強引に速水の体をソファへ押し戻すと、自分のシャツを素早く脱ぎ、それで速水の両腕を縛りつけた。
 縛られた両腕を頭の上に押し付けられた格好で、速水は上に覆いかぶさる宗太を睨み上げた。
「お前、覚悟はできてんだろうな」
 凄みを利かせて睨みつければ、いつもの宗太なら怯んで引き下がるはずが今回は違った。
「もちろんっスよ。死も覚悟っス!」
「死って……っ」
 鬼気迫る宗太の様子に逆に速水が怯み、その隙を突くように宗太が速水の急所を掴んだ。咄嗟に息を詰める速水。あまりの状況に忘れかけていた欲情が勢い蘇ってくる。
 忘れていたと言っても薬で昂ぶった欲情が治まっていたわけではない。宗太に握られ2、3度扱かれただけで、思わず腰が浮くほどの強い快感が速水を襲う。
「ぅあ――っう――」
「媚薬の効き目、すごいっスね、速水さん。先走りがこんなに――」
 宗太の指が速水の先端から溢れた露を掬い、それを広げるようにしてまた速水を扱く。湿った音が速水の耳について羞恥心をかきたてる。
「辛そうっスね。1回イっときますか?」
 宗太はそう言って、返事を待たずに手の動きを早めた。
「あっ――やめっ、ぁっ!」
 抵抗したい気持ちはあったが快感には勝てず、速水は腰を浮かせて体を硬直させると、自身を宗太に握られたまま射精した。先端から吐き出された精液は、勢いよく速水のシャツに飛び散っていった。
 射精を終えると速水は体を弛緩させ、ソファにぐったりと倒れこんだ。薬のせいか手淫で一度射精しただけだというのに、かなりの体力を消耗したような疲れを覚えた。
 だが、イッたばかりだというのに、宗太の手が離れた速水のそれはまだ硬さを保ち続けている。
「シャツ、汚れちゃいましたね」
 宗太はそう言いながらも、なぜかシャツではなくズボンを脱がしにかかった。射精後の余韻と持て余すほどの欲情に速水は身動きとれずにいたが、なんとか宗太を睨みつけて言葉を発した。
「これ以上やったら……お前本当に知らねぇからな……」
「……わかってるっす、速水さん。言ったでしょ。オレは覚悟の上だって」
 真剣な面持ちで宗太は速水を見つめ返し、速水の両足を抱え上げるとどこに隠し持っていたのかオモチャを取り出した。色は白の真珠のような色をした小さな丸いものが、幾つも連なって棒状になったものだった。
 そして、これまたどこかから取り出した潤滑油をオモチャに付けて、それを宗太は速水の下半身へ持って行った。
「挿れるっスよ、速水さん」
 先端を速水の入口にあてがい――
「ぁ――ぅっ」
 入口を広げながら冷たい無機物が挿入される異物感に、速水は瞬間怯み体を強張らせた。
 小さな球状のものがひとつひとつ、速水の入口を刺激しながら挿入っていく。
 オモチャを挿れられることに嫌悪と恐怖を覚えていた速水だが、それ以上に快感を感じていることを自覚し、内心でかなり戸惑っていた。
 しかも、幾つか挿れられたあとで引き抜かれる際には、意に反して変な声が出てしまう始末。
「ぁう――はぁっ――ふっ」
 丸いものが出たり入ったりする度に、速水は言葉にしがたい奇妙な感覚を覚えたが、何度も抽挿されているうちにそこが痺れ、悶えるような快感がそこから広がっていく。
「はぅうっ!」
 さらに、先端が内壁を擦り、敏感な部分に触れた途端、腰がビクリと跳ねて速水らしからぬ甘い声が漏れた。
「速水さん、すげぇエロいっスよ……」
 見れば、宗太自身も頬を染めて昂ぶった表情で速水を見下ろしてきている。
「バカっ……お前の、顔の方がっ――ゲスいんだよっ」
「そりゃ速水さんの痴態のせいっスよ。オレ、速水さんのエロい姿見れて嬉しいっス。ほら、ここ――」
「ぁう!」
 ふいに宗太が、空いた方の手で速水の先端に指を絡め、咄嗟に速水の体が震える。
「さっきイッたばかりなのに、もうビンビンじゃないっスか。しかも涎をこんなに垂らして……」
 宗太の言うとおり、速水のそこは硬く張り詰めており、先端から溢れた先走りが雫となって速水の腹に糸を引きながら垂れている。宗太の指先がやんわりと焦らすように触れるごとに、ドクンドクンと脈打って限界がすでに近いように見える。
 薬のせいとはいえ、速水は自分の体の浅ましい反応に恥ずかしくなる。
 先端をいじられながらオモチャは抽挿を続け、すでに速水の体を熟知している宗太は、速水の敏感な部分を執拗に攻め立てた。
「速水さん、もうイッちゃうんじゃないっスか?」
「ぁ、ぅ――そう、たっ」
「実はこれ、バイブするんスけど、スイッチ入れてもいいっスか?」
 快楽に理性が飛びそうになっている速水は、宗太が何を問うているのかよくわからなかったが、とにかく良くないことだと思い首を横に振った。だが――
「ダメっすか? でも、入れちゃいます」
 宗太がそう言ったかと思うと、速水の中にあるオモチャが高速の振動を始めた。
「はぅうっ!?」
 しかも、その先端が内壁の敏感な部分にあてがわれ――
「あぁっ――あっ、ああっ!!」
 速水は強すぎる快感に、思わず腰を浮かせると自身の先端から白濁の液を放出させた。
「ああぁ――……」
 二度目の射精は一度目よりも長く、勢いよく放たれたせいで速水自身の顔まで汚した。
 射精後、再び体を弛緩させてぐったりする速水に、宗太が覆いかぶさるように身を寄せると、速水の顔に飛び散った精液を指でぬぐった。
「いっぱい出ましたね、速水さん。しかもオモチャで……気持ち良かったですか?」
「……っ、ばか……早く、抜けって」
 速水の中には、まだ振動を続けるオモチャがあったが、それを放置して宗太は速水の顔や首筋などを、精液を舐め取るように舌を這わせている。
「宗太、やめ――っ」
 身じろぎして宗太を上からどかそうとした速水だが、宗太が首筋に噛み付き、シャツの上から突起した乳首をいじられて思わず声を詰めた。
「そ、宗太っ――もう満足しただろ、どけよ!」
「イヤっス。もっと速水さんのエロい姿見たいっス」
「お前な……」
「それに、速水さんだってまだ物足りないっスよね」
 宗太にそう指摘されて速水は言葉に詰まった。
 確かに、二度も射精したというのに速水のそれはまだ完全に萎えてはいない。
 だが、そもそもそれは宗太が盛った薬のせいじゃないかとも思う。しかし、「お前のせいだろ」と言えば「じゃあオレが責任持って――」などと言いそうで速水は言い返すのに迷った。
 しかし――
「実はもう一個あるんスよ。これも試してみていいっスか?」
 結局は同じことだった。
 そう言って宗太が上体を起こし、その手に新たなオモチャを掲げて見せた。それは、今速水の中にあるものとは違う、明らかな性器の形をしたオモチャだった。
「バカっ! いいわけないだろ!」
 速水は慌てて上体を起こそうとするが、振動したままの中にあるそれを無造作に引き抜かれて思わず体を強張らせた。
 その隙を突くようにして、宗太は素早くオモチャを持ち替えると、男根の形を模った太めのそれを速水の中に挿入した。
「あっ――ばかっ――そう、たっ!」
 先ほどとは違う強い圧迫感に速水は思わず息を詰めた。これよりも太い宗太のものを経験している速水からすれば、慣れた感覚ではあるはずなのだが、それが人のものでない無機物だと思うと、やはりどうしても身構えてしまう。
「だめ、だって!――抜けよ――っ!」
 一度慣らしているからか、それとも残っていた潤滑油のおかげか、オモチャは容易く速水の中に飲み込まれていく。痛みはなかったが、あっけなく奥に沈んで行ってしまうことに速水は強い恐怖を覚えた。
 さっきのオモチャとは違う、はっきりとした大きさのそれが、どんどん自分の体の中に埋もれていく。
「は……あ……そ、宗太っ」
「速水さん、気持ちいいっスか?」
 宗太が今度はオモチャを抽挿させながら、そう問いかける。確かに速水は男根を模ったそのカリが、敏感な部分を擦り上げるたびに腰を震わせ悶えている。まだ薬の効果が残っているせいか快感はあった。
 だが、次第に快感よりも恐怖の方が大きくなってきているようで、速水は快感よりもオモチャが早く自分の中から抜かれることを望んでいた。
「宗太――ぬ、抜いてくれっ」
 しかし、そんな速水の心情を察することなく宗太は続ける。
「待ってください。これにはスイング機能が付いてるんスよ、ほら」
 宗太がスイッチを入れたらしく、速水の中にあるオモチャが途端にスイングを始めた。
「はっ、んっ――」
 途端に自分の中で回転を始めるオモチャに、一時は恐怖を忘れて翻弄される速水。恐怖で萎えていたものが、途端、快感に押し上げられて昂ぶっていく。
 さらに、スイングしたまま荒々しく抽挿を繰り返されて、速水は強引な快感に身悶えた。
「はぁっ――そう、た――宗太っ」
 押し上げられた昂ぶりのせいで、速水のものは再び硬く勃たちあがり、硬さと質量を増していく。
 だが、ふと瞑っていた目を開いて見ると、当たり前だが自分と繋がっているのは宗太でも誰でもない、ただのオモチャだと再認識する。そのことに速水は恐ろしさと憤りを覚える。
「速水さん、このまま、またイきそうっスね」
 熱に浮かされたような、それでいて能天気な宗太の言葉に、速水の理性が吹き飛んだ。
「ばかっ、ヤロウっ! 俺はオモチャなんかで、イきたくねぇっ! お前のでイきたいんだっ! お前と一緒にイきてぇんだよっ!」
 途端、ハッとしたように宗太が動きを止めた。そうして、じっと速水を凝視している。速水はそんな宗太を睨みつけながら続けた。
「そんなもんでイかされて気持ちいいかよっ! 怖ぇよ! 虚しいんだよ! お前のが欲しいんだっ!!」
「速水、さん――っ!」
 宗太は一度ゴクリと喉を鳴らしてから、そっと、だが慌てて速水の中からオモチャを引き抜くと、ズボンを脱いで自分のものを露にした。
 たぶんずっとそうだったのだろう、すでに硬く怒張した宗太の先端が濡れている。
 そうして、速水の両足を押し開くと、先端を速水の入口に押し当てた。
「速水さんっ!」
「ぁ、っ――」
 力強く押し上げられる勢いで、宗太のすべてが速水の中に突き入れられる。一気に奥まで刺し貫かれて、咄嗟に速水は背を仰け反らせた。強い刺激に肌が粟立つのを感じたが、それは痛みや恐れではなく自分の中を満たされた快感からだと速水は気づいていた。
 オモチャとは違う、硬くて力強い、それでいて温かい――熱いほどの宗太のものが自分の中を満たしている。それが速水に安心感と充足感を感じさせていた。
 生理的現象か、速水は目じりに涙が滲むのを感じ、それと同時に言葉にできない感情も身内にこみ上げてきているのも感じた。
「あぁ――宗太……」
「速水さんっ――速水さんっ!」
 奥まで宗太のすべてを捻じ込まれ、次にはもう性急に攻め立てられる。荒々しく挿し貫かれ、何度も奥を突き上げられ、内の敏感な部分を擦り上げられ、速水は早々に限界まで押し上げられた。
 激しく力強い宗太の攻めは、腰を打ち付けるたびに肌と肌のぶつかる音がするほどで、それが耳に届くと速水は羞恥を覚えるが、同時に興奮も覚えた。
「そう、たっ!――あっ!」
 すでに速水は限界に近かったが、この昂ぶりは薬のせいなんかじゃないと何故だか確信を持って言えた。
「速水さんっ! オレっ、もうっ――」
 どうやら宗太ももう限界が近いようだった。いつもの宗太らしからぬ早い限界ではあったが、速水をオモチャで攻めながら相当我慢していたのか、それとも速水に言われた言葉で感情が昂ぶったのか。
 いつにも増して激しく速水を求め、攻め――
「も、オレ――イクっ! 速水さっ、一緒に――」
「あっ――宗太っ! 俺も――イクッ!」
 小刻みに抽挿を繰り返していた宗太の腰が強く押し付けられると、速水の奥をめがけて熱い精液を放ち、それを感じながら速水も全身を痙攣させながら射精した。
 自分の中で大量の精液が放出されるのを感じながら、速水は心地よい倦怠感と充足感を味わっていた。
 そうして、すっかり終わった気でいた速水だったが――
「……おい」
 速水の中に居座ったままの宗太が、まだ硬さを保ったままゆっくりと抽挿を始めた。
「宗太、抜けって」
「待ってください、速水さん。もう1回……」
「バカ言え! 俺はもう3回もイかされてんだぞ! 無理だっ!」
 しかし、熱っぽい目で見下ろしてくる宗太の顔に、昂ぶった感情は見えても余裕は見えない。腰の動きも次第に早くなっていく。
「バカっ――まじ、無理っ――せめて手、ほどけっ!」
「イヤっす。解いたら抵抗するんスよね」
「おまっ、ほんと――あっ!」
 ふいに、まだ僅かに硬さの残る速水のものを宗太の手が包み込んだ。柔らかく扱かれて、つい速水の体が反応する。
「マジ――むりっ――そ、たっ!」
 再び宗太の腰つきが力強くなり、速水の中を激しく攻め上げる。
「あぁ、速水さんの中、すげぇ気持ちいぃ――っ!」
 すでに硬さも質量も増した宗太のものが、何度も速水の中を出だり入ったりする。
 繋がったところから、零れ出た精液のせいか湿った音がし始めているが、それすらも宗太の昂ぶりを助長しているようだ。
「っ――んっ――はっ」
「速水さんっ――好きですっ! はぁ、好きっ! 愛してますっ! 速水さんっ!」
 うわごとのように繰り返し、宗太は性急に速水を求め続けた。
「はっ――まじで――死ぬっ……!」
 速水は半分本気でそう呻いた。ここからの宗太が長いことを、速水は経験で知っていた。
 体力が有り余ったぶん宗太は執拗に速水を求め、オモチャで体力を殺がれたぶん速水は疲弊し、死ぬ――までは行かなかったが途中で意識を失ってしまった。
 意識を失ってから、速水は何度か目を覚ましたような気もするが、夢うつつでよくわからなかった。
 だが、ふいに抱きつかれた感覚がしたかと思うと、
「あぁ、オレ幸せ……もう死んでもいい」
 そう耳元で宗太の呟く声が聞こえた気がした。

 朝の眩しい日差しで速水は目が覚めた。
 時間からすればぐっすり眠ったはずだが、感覚としては体に疲れが残ったまま気だるい感じがした。
 気絶するまで宗太に犯されたのだから、それも当然ではある。
 宗太を見つけて「死ね」と悪態のひとつもついてやろうと、速水は横になったまま辺りを見回した。そこでやっと、自分は宗太のベッドに寝かされているのだと気づいたが、当の宗太はどこにも居なかった。
 ダイニングかキッチンか、それともバスルームかと思い、とりあえず起き上がろうと半身を起こし、そうして思わず体の軋みと重さに呻いた。
「くそ……あいつ、マジで許さねぇ……」
 言いながら布団を体の上から退けると、上半身だけ裸なのに気づく。下はちゃんとズボンを履いていたが、どうやら体をきれいにしてくれたようだというのはわかった。
 昨夜、最終的に自分や宗太の精液で体の中も外もぐちゃぐちゃになったはずだが、上半身には汚れもないしズボンの中が気持ち悪いということもない。
 速水が気絶したあとで、タオルで拭いたか、あるいは速水自身気づかなかっただけで風呂に入れられていたのかも知れない。
 こんなに丁寧にきれいにされたのは初めてだが、それは速水に対して無茶苦茶をしたという後ろめたさからだろうか。
(ふん、だからってぜってー許さねぇけどな!)
 内心で悪態をついてベッドから降りると、速水は宗太の姿を探した。だが、どこにも宗太の姿はなかった。
「あいつ……逃げたか」
 速水は舌打ちしたが、とりあえず自分の部屋に戻らないとと、上に着るものを探した。
 速水自身の精液で汚れたシャツは、まだそのまま洗濯機に放り込まれたままだったので、クローゼットから勝手に宗太の服を見繕い、着てきたジャケットを引っ掛けて宗太の部屋を出る。
 いや、出ようとして玄関の床に落ちていたメモに気づく。何気なくそれを拾い見て――固まる。
『宗くん、昨夜は丸聞こえでしたよ。もうちょっと抑えた方がいい』
 文面の意味が分かるにつれて、速水は顔どころか全身が熱くなり手が震え汗が滲み出てきた。
 たぶん、上下左右どちらかの部屋の親しくしている隣人からの手紙なのだろう。それはともかく、昨夜の2人の行為が聞こえていたということは、よほどいつもより大きな声を出していたのだろう。
 自覚はなかったが他人から言われてしまうと恥ずかしいことこの上ない。しかも、昨夜は薬のせいでいつもよりも興奮していたし、変なことも口走っていた気がする。宗太も土下座しながら大きな声で、恥ずかしい一生の願いを叫んでいたような――。
 思い出せば思い出すほど、速水は耳まで赤くして全身を戦慄かせた。
「あいつ――絶対、殺すっ」
 速水はメモを握りつぶすと、それから延々とその場で宗太への怨嗟の念を呟き続けた。
 そして、夜になってもついぞ宗太は帰って来なかった。

2013.06.23

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